ネーミングが重要であることはジャンルによらず確かです。とはいえ、実際にいろんな対象――商品・サービスに限らず、会社名からプロジェクト名、キャラクター名など――に適切なネーミングを施した結果、それぞれどういったメリットが生まれてくるのか? これを本格的に解説した書籍等はあまり見ません。
ここでは、そんな内容(=ジャンルごとに「良い名前」がついているコトでどういったメリットが生まれるのか?)を見ていきましょう。
商品 – 消費者の記憶に残り、クチコミも広がりやすくなる
良い名前は覚えやすく、一度見聞きしたら忘れないものです。そのため、たまたまパッと目や耳に入っただけであっても需要者の記憶に残りやすく、口コミが広がりやすくなります。
また、ネーミングにおいて商品の特徴や価値を端的に表現されていれば、名前自体が顧客の潜在的なニーズを思い出させ、購買意欲を刺激し、指名検索を通じた売上増加につながる可能性も高まります。
ちなみに、ジャンルに関係ない話ですが、クチコミは言い出しっぺの人が覚えている対象について語ることから始まるという仕組み上、需要者の間で覚えられない限り発生しないと覚えておきましょう。
サービス – 内容やメリットの直感的な理解を助ける
通常、サービスには「形」がないため、顧客にその内容や利点を理解してもらうことが難しいです。一般的な業種(たとえば、理容室やラーメン屋等)であれば、大まかなサービス内容は説明不要にもなりますが、一方で他業者との差別化にはさらなる詳細な説明を要します。
このような場合、サービスのネーミングを工夫することにより顧客にサービスの内容や利点を直感的に理解してもらうことができます。また、内容面で競合他社との差別化を図りブランド価値を高めることもできるようになるでしょう。
会社や組織 – 企業の第一印象UP。特にスタートアップの人材確保で大きなメリット
企業や組織も、良い名前がついていることでさまざまなメリットを享受できます。
まずは対外的なメリット。企業や組織の「顔」ともいえるネーミングによって信頼性や専門性を印象づけられることから、取引先や投資家からの第一印象を高めることができます。
また、スタッフや入社希望の人たちに対しても大きなメリットがあります。
会社や組織のネーミング(名称)は実績のないスタートアップ段階においてその第一印象を決める重要な要素であるとともに、その会社と縁を持とうとする人たちにとっては、事業センスや将来性を判断する上での重要な手がかりです。そのため、良い名前がついていればベンチャー精神あふれる優秀な人材からの興味を引きやすくなり、組織の成長にもつながります。
お店や事務所 – 集客増のほか 顧客との関係強化も狙える
覚えやすく興味を引くネーミングは地域コミュニティ内での話題性を高め、口コミによる宣伝効果を促進します。大規模な広告予算を持たない小規模ビジネスにとって、これは非常に重要な利点となります。
また、個人経営や小規模なビジネスの場合、企業や組織よりもオーナーの個性を名前に反映しやすいです。これにより、顧客との個人的なつながりを強化し、大規模な組織にはない親密さを演出できます。
ちなみに、個人商店や士業の個人事務所といった場合、下手な名前をつけてしまうぐらいなら自分の名前を堂々と看板にするというアプローチもあります。それはそれで間違っていません。
ただ、自分の名前をそのまま屋号や事務所名にした場合、その事業は一気にファミリービジネスとしての色彩が強くなります。すると、そこで働くファミリー以外の従業員は「他人の下で働かされている」「所詮は外様である」と強く意識させられるわけです。
結果、事業の右腕・将来の後継者と見ていた幹部にあっさりと独立されてしまう……そんなリスクにもつながるので留意しておきましょう。組織として自分の死後も存続させることを前提に名前をつけるのであれば、創業者の名前をそのまま使うのは好ましくない……というのが、筆者の考えです。
イベント – 目的や雰囲気を効果的に伝えられる
イベントに良い名前がついていることで、イベントの目的や雰囲気を効果的に伝えることができるため、見聞きした人たちの興味を強く引くことができます。また、SNSなどでの拡散性が高まり、より多くの人たちに認知されやすくなります。
結果として集客が向上するとともに、イベントの名称と内容のミスマッチが起こらないように配慮することで、参加者の満足度向上も期待できます。
ちなみに、イベントという対象の性質上の問題なのか……定例イベントであればそもそも名前を変えるという発想が生じることすらなく、また、単発のイベントであれば同じイベント名を引き続き使うことで認知度や信用を高める(=育てる)という発想がないためか、「イベントのネーミング」についてはあまりその重要性が浸透していないように感じます。
逆に言えば、イベント名こそ、ネーミングの強力な効果を実感できる穴場ってコトです。
プロジェクト・企画 – メンバーの一体感とモチベーションが向上
プロジェクトや企画に気の利いたネーミングがなされていれば、それがチームメンバーの一体感や目的意識を高め、モチベーションの向上へとつながります。また、プロジェクトの重要性や意義を社内外へ効果的にアピールすることもできます。
加えて、プロジェクトや企画が生まれるたび意識してネーミングを行うよう習慣づけていけば、その積み重ねは自社の企業文化を形成する重要な情報資産となります。これらは新入社員への教育、将来的な事業承継の際の一助ともなるでしょう。
芸名や筆名 – タレントや作家としての可能性をより引き出す
芸名や筆名について、単一のモノサシでネーミングの良し悪しを語ることが必ずしも正しいとは思いませんが……それでも、芸名や筆名はやはり話題にのぼってこその世界です。したがって、その名前が覚えやすければ、ファンの印象に残りやすくなります。
また、本名とは異なる個性や魅力を表現することで、芸術活動の幅を広げることができます。
逆に気をつけなければいけないのが、芸名や筆名は良くも悪くもその活動内容を方向づけ、時には制限する……というコトです。「玉袋筋太郎」さんがその芸名のせいでなかなかNHKの番組に名前を出せなかったり、勝手に変名(玉ちゃん)にされたりしていたのは記憶に新しいところですね。
この「縛り」が企業や団体名以上にキツいのも芸名や筆名の特徴です。そのため、活動領域や作品ごとに芸名や筆名を使い分ける方もいます。
キャラクター – 認知度イコール「命」なのでネーミングが最重要
創作物は単純な生命維持・生活の維持という観点から見た場合に「なくてはならない」モノではありません。それだけに、多くの人たちに存在を認知されることや記憶してもらえることが、その存在意義と存在価値に直結します。
そのため、覚えやすい名前を持っていることがキャラクターの生命維持(=存在価値の維持)に欠かせない要素となるでしょう。キャラクターを創作し、それを売り出したいのであれば、そもそも良い名前を持っていなければ生き残れない……ぐらいに考えて渾身のネーミングを行うべきです。
概念や流行・社会現象 – 名前があってこそ話題にできる
これらについての良いネーミングは、複雑な事象を簡潔に表現し、人々の理解や認識を促進します。
また、名前がついたことにより、その概念等を議論や研究の対象として扱いやすくなるため、社会的な関心や対策も集めやすくなります。