ネーミング道場 第1回「良い名前」とは?

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 商品やサービス、あるいは会社などに良い名前をつけてビジネスのスタートダッシュを華麗にキメたいあなたも、namaelで数ある候補の中から採用を勝ち取り報酬を獲得して脳汁ドブシャアアアアアとか一攫千金ヒャッハアアアアアアとかしたいあなたも、まずはコレ!

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 「良い名前」とはいったい何なのか。

 これを知らないと始まらないです。

 ぶっちゃけ、あれこれとネーミングのテクニック(笑)を駆使して候補案を挙げるだけなら、今の時代、ChatGPT使えばある程度はできます。ただ、そうやって挙げたあと、どのネーミングを採用するかについて明確な選択基準がないと、仮に多数の候補の中に良い名前があったとしても、玉石の中からはいコレ!と「玉」を取り出せないワケです。

 もっといえば、たとえ候補案が千あろうと万あろうと、基準に照らして全部ダメなら「はい全部クソ!! やり直し!!」と躊躇なく見送れるほどに(※)、自信を持って良い名前か否かを判断できるようになってほしいところです。

 ※特にChatGPTを使ってネーミング候補を出す場合、これができないと本当に、悩みに悩んだ挙げ句クソを掴まされます。

 では、いってみましょう。

「良い名前」の条件 3 + 1

  • 覚えやすい(一度見聞きしたら忘れない)
  • 対象の「良さ」を言い表している
  • 語感が良い
  • (次点)複数の意味を持っている


 これらを満たすのが「良い名前」であると考えて差し支えありません。

 で、4つ挙げましたけど、少なくとも上から3つは「すべて満たさないとダメ」です。

 どれかひとつ欠けているだけでもダメ。なぜなら、この3つのうちひとつを欠くだけで「良い名前」としての本質的価値は失われるからです。

 具体的にはこういうコト。

  ↓  ↓  ↓

 ①覚えにくい名前⇒覚えてもらえないので誰にも口コミしてもらえない。この状態で認知度を高めようとゴリ押しすると、そのために広告費を必要以上にジャブジャブと使い続ける羽目になります。Life Time Advertising Cost(生涯広告費※造語です)……とでもいうんですかね。名前が覚えやすいかどうかで雲泥の差が出ます。

 ②対象の「良さ」を表現できていない名前⇒ここを表現できていないと外部(特に顧客)に魅力が伝わらない。まさに「売れない名前」の王道パターンです。

 ③語感が悪い名前⇒①②を満たす場合、かえって対象についてのネガティブイメージを全力で拡散し、第三者に印象付けることになります。ファッション業界でいうならば、ブランド名自体がダサさを全力でアピールしている感じ。完全なる逆効果ってヤツです。

 続いて、「良い名前」に求められる各条件について語っていきましょう。

覚えやすい

 これはものすごくシンプルに、「覚えにくい名前の商品やサービスその他は、顧客側の想起集合に入れないから」、そして「話者の記憶にない情報が発信されることは基本的になく、結果、口コミが発生しないから」です。

 クチコミも購買行動も、名前を覚えているからこそ語れるし、話題として盛り上がります。たとえば、SNSで漫画の名セリフがしばしばバズるのもセリフが記憶されているからですよね。

 名前も同じです。つまり、覚えやすいことが、「良い名前」の第一にして絶対の条件。一度耳にしたら忘れないぐらいであってほしいです。

 ちなみに、「覚えやすい=とにかく短い名前」かというと、必ずしもそうではないのでご注意を。実は長いけど覚えやすい名前というのも存在します

 代表例は、15年ぐらい前……たしか『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あたりから始まったラノベの長いタイトル。「良い名前=基本的に短い」というそれまでの常識を見事に打ち破ったエポックメイキングな名前でした。

 こういう系統のネーミングは今でも脈々と続いていて、たとえば今年(2024年)の夏アニメにもありますね。『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』とか。

 こんなに長いけど、確かに「覚えやすい」……

 もっとも、「長いけどなぜか覚えやすい名前」を成立させるには、尋常でないレベルの高度な言語センスが求められます。口にしたときの言いやすさや気持ちよさ、リズム感に始まり、情景の思い浮かびやすさ、途中でいい間違えにくいまとまりの良さ、さらには自然発生的に生まれそうな略称(上の例なら 俺妹、ロシデレ 等)まで想定しておく必要があるでしょうね……。

 しかも、そこまでやっても失敗すればただの覚えにくい名前ってのが。長くて覚えられない名前なんて最悪のクソネーミングですからね。リスク高ッ!!

 なので、いろいろゴチャゴチャ書いてしまったけれども、この路線(=長いけど覚えやすい)は安易に狙わない方がいいと思います。

対象の「良さ」を言い表している

 この項目を読んで、「良さ」って何?? と思ったのであれば、なかなかのセンス。

 実はここ、ネーミングの良し悪しを判断するうえでもっとも誤解されやすい部分なんです。「良さ」とは何か、その意味合いを捉え損なうと良い名前どころか独りよがりの「良くない名前」になってしまいます。

 少なくとも、「良さ」には2種類あるんですね。

  • 名付ける側にとっての「良さ」(プロダクトアウト志向)
  • ターゲット顧客にとっての「良さ」(マーケットイン志向)



 で、こう書くと、すぐに「ハイ、前者はダメで後者がいいんですよね!」と誤解する人が出るんですけど、それも違います。あくまでケースバイケースです。

 以下のように冷静に振り分けてください。

  ↓  ↓  ↓

事業主体のネーミング ⇒ プロダクトアウト志向

 いわゆる「自己の名称」。会社名、組織名、芸名、筆名、(自分たちの)バンド名や劇団名、お笑いコンビ名など。

事業客体のネーミング ⇒ マーケットイン志向

 こちらは、上の事業主体が生み出した「商品・サービス等の名称」。キャラクター名やイベント名なども基本的にはこちら。要するに「お客様が手に入れるモノやコト」はこっち



 事業主体(自己の名称)については、なぜプロダクトアウト志向で良し悪しを決めてよいかというと……

 5年、10年、あるいはもっと、決めた名前を背負って活動を続ける以上、自分の気持ちに沿わない名前を使い続けるのは自分にウソをつき続けるのと同じになり、一種の拷問だからです。

 そもそも市場のニーズや顧客のニーズって時代の変遷や技術革新によってコロコロ変わるんで。その意味でも、自分たちの名前を決める場合は下手に市場なんか見ない方がいいです。

 で、事業客体ですが。

 悪いコトは言いません。客体のネーミングに際しては、自分たちの考える「良さ」などいったん脇におき、ヒヤリングやテストを行って顧客側のニーズや感想(反応)に耳を傾けましょう

 もし、顧客ニーズの発掘が自分たちでできないようであれば、そういった顧客視点を持ったプロに意見を求めるか、あるいはnamaelに頼んじゃうのも良い(手前味噌)です。

 理由はズバリ、仕掛ける側が想定している「良さ」と顧客側が望む(感じる)「良さ」は往々にして異なるからです。

 仕掛ける側の信じる価値が相手に伝わらないなんて普通にあるじゃないですか。

 たとえば、出会いパーティでオレが学歴とか弁理士資格を必死にアピールしたとしても、女性にしてみれば「で、年収は?」としか思えないとか。

 このズレがすなわち「顧客に本来の良さが伝わらない理由」だったりします

 ネーミングを変えただけで売上が何倍にも何十倍にもといった逸話はいくつもありますけど、実はその多くが、商品やサービスの送り手が信じていた「良さ」と顧客が実際に感じる「良さ」のミスマッチを解消した事例なんです。

 どういうことか。

 通常、生み出した側ってお客様の見えない/知らないところでムチャクチャ苦心して商品やサービスを開発しているので、どうしてもその「自分たちがこだわったところ」を見てほしくなるんです。

 たとえば……青汁を例とするなら、生み出した側の人は通常、配合したこだわりの野菜の種類や品質、ヘルシーさ、産地(※)なんかをアピールしたくなる……そんな感じですかね。

 でも、結果として多くのお客様が選んだのは「すっきりフルーツ青汁」だったワケじゃないですか(笑)。青汁だから健康にはよさそう。なおかつフルーツ入りなら青汁特有の苦さマズさは軽減されてるんだろうな、すっきりしてるなら飲みやすそうだな……つまり、「青汁飲んで健康にはなりたいけどマズいのはイヤ!」という顧客のホンネ(インサイト)を直撃した商品名だったんです。

 この、顧客側の感じる「良さ」をいかに掘り起こし、ネーミングに落とし込むか、ということです。

※産地をアピールするのは通常、悪手ではありません。産地名が対象商品の産地として良いイメージを持っている場合など、むしろ積極的にネーミングに取り入れるべきです。ただ、青汁の原料である大麦若葉その他の名産地って一般需要者の間ではあんまり思い浮かばないので、こと青汁に関して、産地アピールは無意味かも……ということ。

 ちなみに、日本でいちばん有名な「名前変えたら大ヒット」事例もこのパターン。

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変更前(イマイチ)
三陰交をあたためるソックス
まさに「作り手が信じる良さ」
変更後(バカ売れ)
まるでこたつソックス
顧客から見える「良さ」を前に出した

 引用元:売上を17倍以上にした秘密とは名前を変えたら売れちゃった靴下国内トップメーカーの岡本「まるでこたつソックス」大ヒット中(岡本株式会社のプレスリリース。PRTimesに掲載のもの)

 参考までに他にも。

「ネピア モイスチャーティシュ」⇒「鼻セレブ」(王子ネピア)

「缶入り煎茶」⇒「お~いお茶」(伊藤園)

 

 まとめると。

  ↓  ↓  ↓

 事業主体(自己)の名前を決める際には「自分たちの信じる良さ(コンセプトやポリシー等)」を体現できているかという視点でネーミングの良し悪しを考えます。

 事業客体(商品・サービス等)の名前を決める際には、あくまで、顧客のニーズを深堀りして出てきた「顧客が感じる良さ、顧客の願い、顧客の反応」を体現できているかという視点でネーミングの良し悪しを考えることが肝要です。

語感が良い

 「覚えやすい」が確かにもっとも重要なんですけど、いくら覚えてもらえるといっても悪いイメージで覚えられちゃしょうがないですよね。

 なので、その名前から「対象にとって望ましいイメージ」が想起されることが必要です。

 この望ましいイメージってのはそれこそ対象の業種などによっても変わるんですけど、例えばハイテク産業なら未来的なイメージが欲しいでしょうし、病院なら安全・安心なイメージ、葬儀屋さんなら基本的には静謐なイメージが望ましいんじゃないでしょうか。(この例示は独断と偏見で行っているため、違っていたらスミマセン)

 こうした「望ましいイメージ」が、口にして言いやすく、耳に聞いて心地よい形で表現されていること。

 それが「語感の良さ」です。

 ここで「語感の良さ」を判断するための重要ポイントを。

 それは、「言ってみて」「聞いてみて」判断するということ。文字面だけ見てOKじゃないんです。必ず口に出して「言う」。

 namaelで報酬かけて名称案を集めれば、おそらく数百(件)程度の応募は集まると思うんですけど、そこから採用案を絞り込む際にもここ(語感の確認作業)は重要。必ず口に出して「言ってみる」

『疾風伝説 特攻の拓』佐木飛朗斗/所十三 講談社

 しつこいですけど、頭の中で言ってみるだけじゃダメで。いうなれば、本当にそれなりに大きく声に出してみて、周囲の女性社員に「いい響きですね」って言ってもらえるぐらいじゃないとダメ

 これは本当に心がけないと、音的に良い名前があるのに気づけなかったり、字面だけ見てキレイだったから採用したものの口に出してみると言いづらかったり、耳から入るイメージが思っていたものと違ったり、そういった事故が普通に起こると思います。

 そして、語感の最終判断は「対象にとって望ましいイメージかどうか」で行います

 たとえば、葬儀屋さんのように静謐なイメージが求められるのであれば、破裂音や濁音が入った名前はあまり望ましくないでしょう。これらの音は静謐さを壊す音ですから。

 逆に、アグレッシブなイメージや強そうなイメージが欲しい場合にナヨッとした名前は合わないですよね。濁音や撥音を使うのはこういう場合。たとえば、昔のポケモン映画のタイトル『幻のポケモン ルギア爆誕』なんかが最高のネーミングになります。

 ルギアというモンスター名からして濁音入ってて強そうですし、「爆誕」に至っては当時こそ「爆誕ってなんじゃそりゃ」でしたけど、バーンと華々しく誕生するイメージの一般語としてもう定着してますからね。

 ちょっと脱線しそうなんで話を切りますね。

(次点)複数の意味が生まれる

 多くの人を惹きつける「良い名前」からは、しばしば複数の意味やストーリーが想起されます。

 ただ、これは良い名前の絶対条件ではないんです。たったひとつの意味しかない名前にだって良い名前は沢山あります。

 いわゆる「そのまんま系」のネーミングの場合がそうで。たとえば小林製薬の「ナイシトール」なんて、「内臓脂肪を取る」以外のイメージを想起しえないじゃないですか。

 でも覚えやすく、効能がわかりやすくて、語感も良いです。つまり「良い名前」の3要件を満たすので、間違いなく「良い名前」です。

 では実際問題、どんな場合に「複数の意味」があると良いのか?

  ↓  ↓  ↓

  • ネーミングの対象が複数の用途や機能を有している
  • (会社名などを考える際に)事業ドメインを広く取りたい
  • (あなたがコンサルタントや社内担当者であって)決済者の同意を取りたい

 このような場合、「名称案に複数の意味があること」が良い方向に働きます。

ネーミングの対象が複数の用途や機能を有している場合

 代表例は、ズバリ施設名やイベント名、街の名前などですね。

 利用する(訪れる)みんなにそれぞれの用途や目的があって、事業主体側から画一的な意味合いを押し付けることがふさわしくない対象です。

 名前にダブルミーニングやトリプルミーニング、あるいはそれ以上の意味合いがあると、その名前を見たり聞いたりした人たちがそれらの意味合いや成り立ち、ストーリーのどこかに共感してくれます。言い換えれば、何かしら見聞きした人の琴線に引っかかる可能性が高まるんですね。

 だから、異なる用途や目的をもち多くの人や仲間を集める「器」として機能させたい対象については、ダブルミーニングやトリプルミーニングがどんどん浮かんでくる名前が好ましいといえます。

ネーミングの対象が複数の用途や機能を有している場合

 もうそのままですけど、単一の意味合いしか感じられない名前は、会社などの事業主体名として採用すると事業ドメインを狭めてしまいます

 たとえば(もうブームは過ぎましたけど)タピオカミルクティの専門店や唐揚げの専門店として特化した名前は、ブームが過ぎたあと他の事業に転用できないですよね。なので、この種の業種特化的な名前はあくまで店名レベルにとどめ、運営会社はもう少し広い事業ドメインを意識した名前にするのが王道です。

 実際、外食チェーンやアパレル等の運営元は多くがそのようにしています。

決済者の同意を取りたい場合

 あなたにネーミングの最終的な決定権がない場合、つまり「自分の考えた名前が良いと思っているが、それを通すには決済者の承認が必要である」という場合です。

 この場合に、対象のネーミングがダブルミーニング、トリプルミーニングといった様々な意味合いを持っているほど(経営陣から顧客まで)多くのステークホルダーにとって受け入れやすくなります。

結局、「良い名前」かどうかはどう判断する?

 あなたの考えた名前、またはnamaelで大量に候補として上がってきたそれぞれの名前が「良い名前」であるかどうかは、最初に挙げた3つで判断しましょう。

  • 「覚えやすい」
  • 「対象の良さを的確に表現している」
  • 「語感が良い」

 この3点です。

 もちろん、「良さ」や「語感」の具体的な判断基準は命名対象の性質や属する業種などに応じて変わります。その辺りの切り分け方は上の文章を読み返してあげてください……。

 あと、実務的には「ドメイン名が空いているか」「商標登録できるかどうか」みたいなチェックポイントもあるんですけど、そういうのは良い名前の候補を実際にいくつかピックアップしてからで大丈夫です。

 最初からあれはダメ、これはダメといって条件フィルターを増やしすぎると、

 「こんな厳しい条件を全部満たす名前なんて考えつけるかぁ!!!」みたいなコトになります。

ちゃぶ台返し
アニメ『巨人の星』(原作・梶原一騎 画・川崎のぼる 講談社)

 正直、良い名前を生み出すには大なり小なりセンスが必要だと考えています。ただ、生まれてきた名前が「良い名前」であるか否かを判断することは、理詰めでできるんですね。

 だからこそ、良い名前を考える上では、あーでもないこーでもないと悶々とするより、まずは本質的な意味での「良い名前」を正確に判別できるようになることが大事です。

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