コンセント制度とは、先行登録商標と同一又は類似する商標であっても、先行登録商標権者の同意(コンセント)があれば後行の商標の併存登録を認めることとする制度です。
商標法の令和5年改正において導入が決定し、令和6年4月1日から実際に導入されています。令和6年4月1日以降の出願について適用されますので、namaelで採用した商標について商標登録出願をした場合はすべて適用対象となります。
考えられる利用ケース
いちばん利用が考えられるのは、「先行登録商標と同一または類似の商標について商標登録出願を行い、商4条1項11号に基づく拒絶理由通知を受けてしまったが、両者は形式的に同一または類似の関係にあるだけで、実際には併存したところで出所混同が起こり得ないと考えられるケース」でしょう。
ちょっと説明が長くて分かりにくいので、具体例を出しましょう。
特にこの制度の恩恵を受けるのは、IT業界、さらにいえばソフトウェアに関連する業界だと思います。
現在の商標制度、特に区分は、ソフトウェアについてそれが何業界でどんな風に使われているかなどお構いなく一律に「ソフトウェア」として9類(ダウンロード可能なパッケージソフトやアプリほか)、または42類(Saasなどオンライン上のサービスほか)に分けられます。
たとえばの話、オンライン上で音楽配信を行うWEBアプリだろうと、HP制作を自動化するオンライン上のツールだろうと、区分にしたら同じ「42類」。指定役務も「オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(Saas)」になってしまうんです。
上のように全く異なる商売について使用する場合であっても両者の商標が類似していると(たとえば、1字違いだったりすると)、上で述べた通り指定役務が一緒(どちらもSaas)なので後願は拒絶される可能性があります。これが従来。
このようなケースにおいて、
「商標が併存することについての両者の合意」
「両商標が併存していることにより、需要者の間で出所混同が起きることはないという見通し」
この2要件が満たされるのであれば、抵触する商標権の成立を認めようというのが「コンセント制度」です。
両商標の併存が認められるか否かは、先願権利者次第……?
コンセント制度により後願にかかる出願人が商標登録を受けるためには、先願後願の両商標の併存について先願商標権者の同意が必要です。なので、実際にはそう簡単に利用できる制度ではないかも知れません。
基本的に商標権ってのは自己の商標をそれと紛らわしい他人のパクリ商標によって荒らされないように独占する権利なので、後願出願人から「併存を認めてほしいッピー」と頼まれたとしても、先願商標権者としてはあんまり認めるメリットないですよね……普通に考えれば。
すでに自己の商標を独占的に使用できる側が、わざわざ自分から独占状態を崩してどうすんのかと。
それでも、以下を満たすような場合はコンセント制度をフル活用できると考えます。
↓ ↓ ↓
- 後願者の商標が本当に代替の効かない最高の名前であり、是が非でも商標登録したい。
- 先願者/後願者の商標が同一ではなく、あくまで類似の関係である。
- 先願商標権者が大企業等の強大な相手ではない。
- 先願者の登録商標が実際に使用されておらず、不使用取消審判の請求も考えられる状況である。
1について。
これは大前提。コンセント制度を利用して後願者が商標登録を受けるというのは一種の裏ワザに近いアクロバティックな手段なので、「その商標でないとダメ」いうのが客観的にハッキリしている商標についてのみ、行う価値があります。相手次第では札束交渉になる可能性も否定できないので。
namaelで多数の候補案の中から最高の1つとして選んだ名称などは、ここに該当することもあるでしょう。
2について。
先願者/後願者の商標が同一であれば、これはもうコンセント制度よりも素直にライセンス交渉を考えるか、諦めるかした方が良いでしょう。仮に併存できたとして、将来的に出所混同を起こす可能性が高く、もし出所混同が生ずれば、第三者から不正使用取消審判(商52条の2)をくらって商標登録を取り消されるおそれすらあります。
逆に類似の関係(たとえば1文字違い)だと、先願者が後願者にその類似する商標について使用を許諾することもできない(※)ので、先願者との間で「後願者に対し権利行使しない旨の覚書」を交わしたりするのが通例ですが、そんな程度の約束のために毎月お金を支払うとかアホらしいですよね……。
※商標権者が他人にライセンス許諾できるのは登録商標それ自体の使用についてだけ。登録商標に類似する商標については、他人の使用を禁止することはできても、使用をライセンスすることはできません(商25条、商37条1号)。
3について。
相手が大企業とか、そうでなくとも独自に知財部を持っているようなところだと、そもそも後願者に商標併存の同意なんてする筋合いがないというか、「おとといやがれ」と突っぱねられて終わりでしょう。
逆にあなたが一定の資産をお持ちで、先願権利者が明日の生活にも困るような零細事業者といった力関係であれば、ちょっとしたカネの力で先願権利者からの同意を勝ち取れるチャンスもあるでしょう。
4について。
このケースが「コンセント制度」の利用チャンスだと考えます。こちらが小規模事業者、相手が大企業であっても対等以上の交渉ができる唯一のケースだからです。
併存の同意を断られたらすぐさま不使用取消審判を請求する構えを持ちつつ(※)先願商標権者のもとに交渉へ出向き、併存を認める同意書に素直にサインしてくれるようであれば、若干の謝礼を渡してシャンシャンできます。難色を示されたら、不使用取消審判にそのまま進めばいいでしょう。
※あるいは、交渉が成立したら取り下げる前提で先に審判請求と商標登録出願をしておきつつ。